神前に立つ

Book title: 

Tao

Book size: 

TEN

Pages: 

2026

Binding: 

J

神社へ参るということは、
願いを届けに行くことだけではない。

鳥居をくぐるとは、
人の世から、神域へ入らせていただくこと。

手を清め、
歩みを正し、
御前へ進む。

そこにおられる御神威を前に、
己の名も、立場も、願いも、
ひととき静める。

神は、人の都合によって在るのではない。

山に在り、
水に在り、
風に在り、
天地の巡りとともに、
人の営みを遥か昔から見ておられる。

だから参拝とは、
何かを得るためだけのものではなく、

「ここまで生かされ、再び御前に立てました」

と、命を携えてご挨拶に伺うこと。

願いを申し上げる前に、
まず頭を垂れる。

答えを求める前に、
ただ御前に立つ。

そして神域を辞するとき、
何かを授かったかどうかを量らない。

風が吹いただけかもしれない。
何も起こらなかったように見えるかもしれない。

それでも、

神前に立った者だけが知る、
言葉にならぬものがある。

神を訪ねたつもりで、
ほんとうは神々の御前へ
己の在り方を差し出しに行く。

それが、
「参る」ということなのかもしれない。